川崎病が増加―早期診断が重要です―


 第59回日本心臓病学会(2011年9月23日〜25日)で川崎病が増加しつつあり、冠動脈の合併症に注意するような報告がされました。川崎病は2歳から5歳に好発する熱性、発疹性疾患ですが後遺症として全身の血管炎を起こす結果、動脈硬化、動脈瘤をおこし、特に冠動脈に動脈瘤が出現すると成人になってからの心筋梗塞の原因となり確実な診断、治療と動脈瘤が残存した場合の冠動脈の経過観察が重要です。川崎病は日本で始めて報告され44年が経過し、長い間原因不明の病気でしたが、研究が進み、近年、その原因が明らかになりつつあり、感染症にともなう全身の血管炎であることがほぼ確実になっています。
 川崎病は、2〜5歳の乳幼児に好発し、春と秋に多く見られ、男児が女児より1.5倍多く罹患します。高熱と血管炎を伴う全身性疾患です。抗菌薬に反応しない高熱が5日以上持続するのが典型的で、それに伴い、血沈とC反応性蛋白(CRP)の高値、好中球増加、時に顕著な血小板増加が認められます。しかし、川崎病を確実に指し示す血液、血清、生化学パラメータがないため、診断の際には臨床症状を手がかりにしなければなりません。手がかりとなる臨床症状は@持続する高熱A結膜炎B手掌紅斑C発疹D口唇の腫脹、苺舌などの口内炎E直径1.5cm以上の頸部リンパ節腫脹の6項目がありますがそのうち5項目があれば川崎病と診断できます。経過は高熱ではじまり数日後に口唇の腫脹、苺舌(90%におきる)が出現その2〜3日後に体幹部に発疹が出現、両手足が発赤、腫脹します。2〜3週間後に落屑し頚部リンパ節腫脹が確認できます。その他、心筋炎(50%に合併するそうです!)、難聴、イレウス、髄膜炎、関節痛、胃腸炎などさまざまな症状が出現します1)。治療は大量免疫グロブリン療法(IVIG)が主たる初期治療です。しかし、治療抵抗例が15 〜 20 %に存在し、追加治療にはステロイド、免疫抑制薬、ウリナスタチン投与、血漿交換療法などが試みられています。しかし、約5 %は、適切な初期治療および追加治療を行っても心後遺症を残すそうです。現在も、初期治療の見直しも含めたより有効な治療戦略についての議論が続いています2)
 川崎病は全身の血管に炎症が起こる病気ですが、冠動脈に動脈瘤や狭窄などの後遺症が残ることが最も大きな問題となります。川崎病における冠動脈の炎症は、発症後 1 週間ごろから、まず中膜において始まり、数日のうちに動脈壁の全層、さらに全周へと拡大し、動脈構造を維持する平滑筋や弾性板が傷害を受けて脆弱化を来します。その結果、発症後およそ10〜12日ほどで、血圧によって風船が膨らむように拡張し、動脈瘤が形成されると考えられています。成人になってこのような動脈瘤を残した症例では時間の経過とともに緻密な膠原線維と石灰化から構成されるきわめて伸展性の悪い瘢痕組織へと変性し、後炎症性動脈硬化症となり、またその一方で平滑筋細胞や内皮細胞増生の結果、血管閉塞や血管新生が継続し粥状動脈硬化症の危険因子となります。このように発症後10日余りという早い経過で冠動脈瘤が形成されることから、川崎病特有の症状がそろわない不定形例と容疑例での診断の遅れやIVIG使用開始の遅れ、あるいは初回IVIG不応例での判断遅延による二次治療の遅れなども川崎病では重要なかぎとなると考えられます2)。また急性期以降や遠隔期における治療は、現時点で特別な治療法が存在するわけではなく、基本的に成人の粥状動脈硬化に伴う冠動脈障害に対する治療法と方法論的に変わりはありません。しかし、冠動脈後遺症例の多くが成長途上にあり、体格の変化に伴う冠動脈病変の変化、あるいは冠動脈血行動態の変化にも考慮しつつ、症例ごとに適宜考えていくしかないようです。MRIでの経過観察が放射線被爆も痛みもなく有用です3)
 川崎病の原因ですが以前よりこの病気になりやすい体質があることが解っていました。川崎病の罹患率には、明確な人種間の差があり、日本、韓国、台湾など東アジア諸国においては、欧米に比し10〜20 倍高い罹患率がみられています。川崎病には同胞罹患率が高く、同胞の一方が川崎病に罹患した場合、もう一方が川崎病に罹患する確率は、一般の罹患率に比較し、約10 倍高い。川崎病の患児の親に、川崎病の既往者が多いということも報告されています。近年、川崎病に関わる遺伝子が判明しつつあります。尾内善広らの研究2)ではitpkc_3C アレルによるイントロン1 のスプライシング効率の低下が、ITPKC 遺伝子産物の減少を導く結果、T 細胞の活性化を抑制するブレーキの効きが悪くなることが、川崎病の感受性と関わっているとのことです。
 発症のきっかけは感染症と考えられています。Q熱、マイコプラズマ、エルシニア感染がきっかけになった報告があります。しかし、現在、最も有力なのは日沼頼夫らが提唱している2)溶連菌毒素のようです。確かに川崎病は溶連菌感染である猩紅熱と症状が似通っているのも納得できるところです。
 以下、現在の川崎病の問題点を記載します。
@ 川崎病が増えている原因は何に由来するのか?診断能の向上のみか?あるいはある感染症が増加しているのか?
A 川崎病罹患後、冠動脈瘤が出来てしまった人の調査で、5 人に1 人は4 主要症状以下であることが判明してきました。つまり疑診例でも動脈瘤が出現していることより診断基準の見直しが必要であるかもしれません。
B 川崎病罹患後、1週間で動脈炎が生じてくることより、早期診断が可能なマーカーの開発が望まれます。
                      平成23年10月24日
参考文献
1)Medical Tribune 44 : 38 : 2011.
2)川崎病研究会:http://www.kawasaki-disease.org/index2.html
3)武村 濃:日本放射線技術学会雑誌, Vol. 63 (2007) No. 6 pp.689-696