結核の血液診断―クォンティフェロン(QFT)―


  結核の診断といえば問診、診察、レントゲン所見から肺結核を疑いツベルクリン反応(以下ツ反)を参考にし、結核菌を検出して確定診断するというのが長いこと行われてきた診断方法でした。しかし2005年4月に血液診断であるクォンティフェロン(QFT)が日本で承認され広く結核診断に用いられるようになりました。QFTの有用性について考えてみます。
 結核は空中を浮遊する飛まつ核を肺内に吸入することで感染します。しかし、結核菌は増殖速度が遅いために大半が咳や痰で体外に排出され感染が成立することは稀だと思われます。頻回、多量の結核菌を吸入した場合にのみ感染が成立します。しかし、一旦感染が成立しても特有な細胞性免疫が作用し8週間ほどで肉芽腫のなかに結核菌は封じ込められ、活動を停止します。感染者の90%はこのまま生涯発病せずに終わります。6〜7%の感染者は感染2年以内に菌の封じ込めが破綻し、結核菌が再増殖を開始するため発病にいたります。残り3〜4%の感染者は、年余を経てなんらかの理由で細胞性免疫が低下したときに(糖尿病、悪性疾患、免疫抑制剤の投与、AIDSなど)結核菌が再増殖を開始し発病にいたります(内因性再燃)1)。結核菌が封じ込められた90%のひとは結核感染者ではありますが、病気ではなく正常です。発病したひとのみが病気で、感染診断と発病診断を分けて考える必要があります。
 日本では世界に類をみないほどBCG接種を熱心に行ってきたので、日本人の80%以上がツ反陽性です。これらの大半はBCG接種によるもので結核感染によるものではありません。BCG接種が子供の結核予防には貢献しているのですが、成人の結核診断の邪魔をしているとも考えられます。QFTは患者から採血し、リンパ球を分離し、結核菌抗原と反応させ、リンパ球が分離するインターフェロンーγを測定するものです。ほとんど結核菌にしか反応しませんのでもちろんBCG接種にも影響をうけません2)。2004年の報告では(現在、改良されたQFTキットが使用されています)、排菌陽性の肺結核患者を陽性コントロール、学生を陰性コントロールとした検討で、ツ反の感度91%、特異度17%、QFTの感度89%、特異度98%となっており、QFTが特異度で特に勝っているというデータでした。このデータはかなり良いデータになっていますが、QFTの判定はかなり信頼できるとういうデータです3)。QFTは結核感染後8週間後より陽性になることが解っています。しかし、どの程度持続するのでしょうか?免疫抑制剤などの投与でどれほど低下するのでしょうか?ここがまだ解っていないのです。最近のデータでは感染後20〜30年経過すると陰性化することがわかってきました。しかもこのようなときにむしろ結核を発病する可能性が高くなる可能性も指摘されています。最近の報告ではQFTの感染診断は感染8週以降の採血ではほぼ感度100%ですが、発病診断における感度はせいぜい70〜80%と考えられています4)。感染診断と発病診断を分けて考える必要がここにあると思われます。肺に陰影があり、QFTが陽性であった場合、肺結核の診断で誤診する危険性は健常者の結核感染率によって異なってきます。2005年における推定結核感染率は20歳で1.4%、30歳で3.3%、40歳で6.7%と報告されています。この推定値が正しいとすると、40歳未満で肺に結核らしい陰影がありQFTが陽性であれば結核と診断しても誤診の危険性は5%未満となり臨床診断としては許容範囲と考えられます4)。また健常者におけるQFTの陽性率は、40代で3.1%、50台で5.9%、60代で9.8%という数値が報告されています4)。つまり、60代以上のひとは正常でも10人に1人がQFT陽性であり、結核と診断するには画像所見の「結核らしさ」が重要であることは従来どおりであるということです。また、結核菌を検出する努力もやはり重要であるということです。QFTの適応年齢として5歳以下はデータがなく不適。6〜12歳では反応が弱く参考程度といわれています。
 QFTの感染診断の信頼性は高く、結核患者発生後の接触者検診にもツ反よりQFTを行ったほうが望ましいと通達されています。しかし、問題は1回あたりの検査料が5000円近くかかることです。それゆえ集団感染が疑われるときはまずツ反を行い、発赤20mm、硬結10mm以上のものに対してのみQFTで確認し、必要なら拡大してQFTを行っていくやりかたもあると思われます3)
 QFTの登場によって結核診断は確実に向上しましたが、問診、レントゲンの読影の重要さは変わらないと思われます。
 QFTの問題点を最後に記載しておきます。
@ QFT陽転後の消長の調査。
A QFT応答の程度と結核感染リスクの関連。
B 小児における検討。
C 免疫抑制剤とQFT応答の関係。
以上のことが明らかになればよりQFTはより有用な結核診断ツールになるものと思われます。

                      平成23年4月18日
参考文献
1)鈴木 克洋 : 肺結核 . 内科 . 2009 : 104 : 805 - 809 .
2)猪狩 英俊 : クォンティフェロンを用いた結核診断の実際. 日内会誌 . 2010 : 99 : 45 - 50 .
3)クォンティフェロン(R)TB-2Gの使用指針 . 日本結核病学会予防委員会.
http://www.kekkaku.gr.jp/ga/ga-35.html
4)鈴木 克洋 : 結核の診断におけるクォンティフェロン検査の有用性. 感染症学雑誌 増刊号 . 2010 :84 :95 .