B型肝炎ワクチンは公費負担にならないの?


  先月紹介した子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の公費負担の反響が大きく、現在ワクチンが品薄状態になり、新規導入が困難になっています。
 しかし、HPVワクチンより前から存在する癌予防ワクチンであるB型肝炎ワクチン(以下HBワクチン)は医療従事者ではよく知られたワクチンですが、一般的にはあまり浸透していないものと思われます。WHOは世界的な制圧を目指す感染症として天然痘、ポリオ、麻疹と並んでB型肝炎を挙げており、その一環としてすべての出生児にHBワクチン接種を行うユニバーサルワクチネーション(UV)を推奨しており、その効果も実証されています。2008年の時点でUVを行っているのは世界で177ヵ国で、日本のように行っていないのは16ヵ国のみで、先進国のなかでは稀な存在です。
 B型肝炎は通常、成人がかかると急性肝炎となり一過性感染で治癒します。しかし、子供が感染をうけるとキャリアになることがあり、数十年の経過で肝臓がんが発生することがあります。B型肝炎ウイルスが6ヶ月以上持続陽性を示す者を、HBVキャリアと呼び、年齢が若いほどキャリア化しやすく、新生児の感染では90%、3歳以下では80%、4〜10歳までの感染で約30%がキャリア化すると報告されています1)。そして15〜35歳頃に慢性肝炎が発症し、ウイルスが血液内より排除される場合もある一方、劇症肝炎で死亡する場合もあります。ウイルスが血液内から一見消失しているようでも、肝臓のなかにウイルスがひそんでおり、免疫抑制剤の投与などで肝炎が再燃することもあります(De novo肝炎)。また、突然、肝臓がんが発生することがあります。つまり、沈静化した慢性肝炎の予後が良好であることはもちろんですが、現在の治療では一旦慢性肝炎になると、B型肝炎ウイルスを完全に体内から排除することは困難であると考えられています2)。ここにB型肝炎にかからないようにする予防の重要性があります。また、さきほど成人は急性肝炎で一過性感染で治癒すると記載しましたが、近年、慢性化しやすいgenotype A型のB型肝炎が都会で流行しており問題となっています。この型は無治療で経過すると25%が慢性化するといわれ、性行為感染症として増加しており、首都圏ではB型肝炎の72%をしめるという報告もされています3)。HBワクチンをうけていない日本の若者に広く蔓延する可能性があります。性活動を行う前の年齢でHBワクチンをうける必要があります。
 ワクチンは当日、1ヶ月後、6ヶ月後に0.5ml (10歳未満は0.25ml ) 筋注です。皮下注は効果が劣りますのでしてはいけません。接種時、よく混和することが大切です。効果は、若年、女性、筋肉注射で抗体獲得率・抗体価ともに良好で、10代女性でほぼ100%有効、10代と20台の間に差があり、40代男性では50〜65%の有効率で抗体価も低いことが報告されています3)。女性ホルモンが免疫応答性を高める作用があり女性が有効率が高い理由と推測されています。また、ワクチンも2種類あり(ヘプタバックス、ビームゲン)、種類によっても抗体陽転率が異なることも報告されています(後者の方が有効というデータが多いです)3)。規定どおり3回の接種終了後、1〜2ヶ月後にHBs抗体を検査することが望ましいとされています。その時点で抗体ができないひとに対して次善の策がいろいろ考えられておりますが最善の方法はまだ定かではありません。また、一旦、HBs抗体が陽性になっても、5年後には約50%のひとで抗体が陰性化します。このような抗体陰性化例に対して追加接種をすべきか否かについてわが国では一定した見解がありませんが、欧米ではリンパ球に記憶が残っており、追加接種は不要であるというのが主流です4)。ちなみに、HBワクチンは渡航ワクチンとしても推奨されています。日本では医療行為でB型肝炎に感染することはありませんが、開発途上国ではその限りではなく、海外で医療活動や救援活動などを行う場合、性行為を行う場合には接種がすすめられます。また、外国に編入学する場合にも接種証明が必要なことがあります。

 HBワクチンについてのまとめ
@ 日本でも米国のように生後6日以内、1ヶ月後、6ヶ月後のUVが必要と思われる。
A 現状では、抗体が出来やすく、また性行為を行う前の10代に接種を終了させておきたい。
B 首都圏のB型肝炎の大半が慢性化しやすいgenotype Aで性行為感染症である。
C 一旦、慢性化したB型肝炎からウイルスを除去するのは難しく、将来、再燃する可能性があり、ワクチン予防が重要である。

                      平成23年4月11日

参考文献
1)八橋 弘ら : B型肝炎の自然経過. 内科 . 2007 : 100 : 635 - 638 .
2)溝上 雅史ら : 日本肝臓学会コンセンサス神戸2009 : B型肝炎の診断と治療.
           肝臓 . 2010 : 51 : 39 - 56 .
3)奥瀬 千晃ら : 当院および関連施設におけるB型肝炎ワクチン接種の有用性に関する検討.
           肝臓 . 2011 : 52 : 87 - 93 .
4)中野 貴司ら : 海外渡航者のためのワクチンガイドライン2010 . 第1版 , 協和企画 , 東京 ,
            2010 : 18 - 20 .