りんご病増加中、成人も罹ります


 りんご病が全国で増加しており、2000年以降では2007年に次いで報告数が多く、今年は流行する可能性が高いことが報道されました(2011年3月4日 共同通信)。
 りんご病は伝染性紅斑や第5病とも呼ばれ、小児の頬に出現する蝶翼状の紅斑が特徴の流行性発疹性疾患であり、パルボウイルスB19の感染によっておこります。5年毎に流行する傾向があり、春に多い傾向があります。患者の年齢分布は5〜9歳が最も多く、ついで0〜4歳に多くみられています。10〜20日の潜伏期間の後、頬に境界明瞭な紅い発疹が現れ、続いて手・足に網目状・レース状の発疹が出現し始めて診断されます。典型例では診断に迷うことはありませんが、英国の調査では半分が風疹と誤診されたという報告もあります1)。発疹出現7日前に咽頭痛、微熱、頭痛などの症状がありますが軽度のため、周囲のひとは気づかないことも多いようです。発疹は1週間ほどで消失し、全経過を通じて軽症で経過します。ウイルスは咳やくしゃみなどで伝染し、発疹出現前の7日頃の風邪症状のときに最もウイルス排泄量が多く、伝染しやすく、紅斑が出現したときにはウイルスは消失して伝染力はないと言われています。すなわち、パルボウイルスB19の感染蔓延を阻止することはほぼ不可能と考えられます。流行しているという情報を得たら、なるべく子供に近づかないことが唯一の予防手段でしょう。学校保健法では登校停止の規定はなく、軽症で経過するため登校継続しているようです。
 成人のパルボウイルスB19抗体保有率は50%で、年齢とともに抗体保有率も上昇し、60歳で80%以上となります。60歳以上でも当然罹患することはあります2)。海外の報告では抗体陰性者が1年間にパルボウイルスB19に感染する確率は1.5%と推定されており、小学校の教師や母親では2.9%に上昇すると報告されています3)
 成人のパルボウイルスB19感染症は小児と異なり、典型的な皮疹の出現はなく、非定型的な全身症状が出現します。ヒトパルボウイルスB19は感染するときに赤血球のP抗原に接着し(生まれつきP抗原のないひとには感染しないそうです)、その接着した部位の症状、例えば、P抗原は赤血球、血管内皮細胞、胎盤、巨核球、胎盤、胎児肝臓、胎児心臓などに存在するため、貧血、血管炎症候群、血小板減少症、流産、胎児水腫などの症状と、免疫学的過剰反応、例えば、多関節炎、脳炎、血球貪食症候群、各種自己抗体の出現などの症状に大別することができます。特に問題になるのは妊婦さんが感染したときの流産・胎児水腫です。妊娠3週ぐらいから妊娠全経過にわたって感染が成立しますが、自然治癒する場合もあります。1987−1988年と1992年のりんご病流行年に福岡では出生1000例に2例発生したそうです。
 成人の感染は非定型的で、かつ50%前後に不顕性感染がおこるとされ臨床診断は難しいと思われます。確定診断はEIA法による血清のIgM抗体の検出です。永井ら2)は以下の症例に血清確定診断をすすめています。@CRPが低値、白血球増加なし。A短期間の粟粒大の紅斑(顔面は稀)。B上下肢の関節痛や筋肉痛。C指先、足首、足底の浮腫。D患児との接触。E感冒様症状。F補体価が正常か低値、自己抗体陽性。この7項目のうち@を必須として残る6項目のうち3項目を満たしたものを確実とすると、感度100%、特異度88.9%と良好な臨床診断率であることを報告しました。
 パルボウイルスB19感染症には治療薬がなく、多くの成人パルボウイルスB19感染症が見逃されていてもさほど問題がないようにも思われますがそうではありません。以下に記載します。
 成人パルボウイルスB19感染症が診断されずに困る点。
@ いわゆる誤診で、余計な治療(インフルエンザ薬や抗生剤など)をされる。
A 成人パルボウイルスB19感染症はさまざまな合併症をおこし、隔離や入院治療が必要なことがあり、放置することにより難治化、重症化する場合がある。
B 膠原病・関節リュウマチと類似の症状・検査所見を呈する場合があり、余計な検査が行われる可能性があること。成人パルボウイルスB19感染症は関節痛が77.2%と高率におこり、数ヶ月も持続することがあり、また、検査所見では補体の低下(頻度不明)、抗DNA抗体(68%)、抗リンパ球抗体(88%)、80倍以上の抗核抗体(46.2%)、ANCA(頻度不明)などの膠原病を疑わせる異常データが多数出現する3)ため検査すればするほど膠原病・リュウマチ疾患と誤診されるひともいるものと類推されます。むしろ、パルボウイルスB19をこれらの病気の原因と考えるむきもあります。

 今後、りんご病の蔓延とともに、成人のパルボウイルスB19感染症も増加するものと予想され、見逃さないように診療していきたいと考えています。

                            平成23年3月14日
参考文献
1)IDWR 伝染性紅斑  http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_23/k04_23.html
2)永井 洋子ら : 当科で2年間に経験した成人ヒトパルボウイルスB19感染症15症例の検討.
感染症誌 . 2009 : 83 : 45 - 51 .
3)熊野 浩太郎 : ヒトパルボウイルスB19感染症の様々な病態.
日臨床免疫誌 . 2008 : 31 : 448 - 453 .