子宮頸がん予防ワクチン-公費負担が拡がっている-


少しづつ全国で子宮頸がん予防ワクチンの公費負担が拡がっていますが、当院が所属する菊池市ではまだ補助がなく、接種するひとも少ないようです。補助がないと3回で5万円近くかかってしまうからです。今回、子宮頸がん予防ワクチン(以下HPVワクチン)について考えてみます。     
HPVワクチンは現在発売されている2価ワクチン(サーバリックス)と、本年発売予定の4価ワクチンがあります。2価ワクチンはHPV16型・18型の2種類、4価ワクチンは2価ワクチンに6型と11型を加えたものです。両者を比較すると、子宮頸がんの予防という効果では同等でありますが、尖圭コンジローマや再発性呼吸器乳頭腫症の予防もできるという点で4価ワクチンが優れていて世界でも4価ワクチンが主流です1)。再発性呼吸器乳頭腫症は母子感染でおきる乳幼児の喉にできるイボで10回以上も手術を要することがある病気です。また、米国では青年にもHPV4価ワクチンを接種し尖型コンジローマを予防するように推奨されています。
HPVワクチンはウイルスそのものではなく、人工的に作成したウイルス様粒子を合成したワクチンなので副作用は少ないといわれています。ただ、従来のワクチンと異なり筋注なので痛みを訴えるひとが多いようです。しかし、ワクチンは筋注が正しい投与法です(当院ホームページ参照ください)。ワクチンの作用機序は液性免疫のみで、細胞性免疫には関与しないので、感染予防効果はありますが治療効果はありません。これが若年者のみに行う根拠です1)
HPV感染症は最も多く存在する性行為感染症であり、20歳前後で40〜60%にHPV感染が起こるといわれています(外国の報告です)。しかし感染から3年ほどでその9割が自然除去されるといわれております。しかし、残りの1割程度は感染状態を維持し、感染病変を徐々に増悪させ、一部では十数年後に子宮頸がんを発症させるといわれています。HPVは約40の型が知られ、そのうち15の型が子宮頸がんに関連しており、16型と18型で80%のリスクを占めると考えられています。性行為を行う前にHPVワクチンを接種してHPVの感染予防しようということです2)。接種勧奨は13〜16歳ですが、免疫反応としては11〜12歳が反応が良いみたいです。抗体の持続期間は現在も調査中ですが、最長6.4年といわれています。副効用として肛門癌、膣癌、外陰癌や一部の喉頭癌、食道癌、肺癌の予防効果もあるそうです。接種回数は、0、1ヶ月後、6ヶ月後の3回です。
HPVワクチンの現在の問題点をあげてみました。
@ 従来より言われてきたことですが、国民の健康に関わるワクチン接種が、何故市町村のような狭いレベルで左右されるのでしょうか?。お金のある町に住んでいるとワクチンが無料で、お金のない町に住んでいると5万円も支払わなければならないのでしょう。国のレベルで対処してほしいと思います。
A 一般的に考えて、ワクチンの有効期間が3回も接種したにも関わらず、最長6.4年というのは短すぎると思います。このことを接種する医療者や製薬メーカーもきちんと被接種者に伝える義務があると思います。それに加えて接種後も子宮癌検診が必要であること、数年後のワクチン再接種をする場合があることを説明するべきでしょう。また、日本では欧米より性行為開始が3年ほど遅く1)接種年齢をもう少し遅らせるなどの検討が必要でしょう。
B 今後、本年中に4価ワクチンが日本でも使用可能になりますが、どう使い分けるのか?2価の後に4価を接種してよいか?などの問題を早期に解決すべきと考えます。
 
 全世界のがんのうち約21%は感染症が関係しているとされ、そのうちの64%がウイルス感染によるものと考えられています。現在、がんに対する治療として多くの分子標的治療が開発されつつありますが、がんは予防が原則であり、特別な副作用がないワクチンによるがん予防は今後、研究・開発がすすんでいくでしょう3)。そのさきがけとしてのHPVワクチンはぜひとも成功してほしいと思っています。
                            平成23年3月7日
参考文献
1)古川 裕之 : 子宮頚部HPV感染症の疫学研究とワクチンによる予防.
感染症誌 . 2008 : 82 : 609 - 612 .
2) 子宮頸がんのサイト      http://allwomen.jp/index.html
3) 第48回日本婦人科腫瘍学会 . 発がん性感染症研究継続の重要性を強調 .
Medical tribune 2010 : 43 : 17 - 18 .