ポリオワクチンの個人輸入が増えている理由は?



 ポリオワクチンの個人輸入がふえていることが報道されました(平成22年12月15日 読売新聞)。これはどういうことか考えてみましょう。
 ポリオは小児麻痺とも呼ばれ、ポリオウイルス(血清型によりT、U、V型に区分)によって主に四肢に非対称性の弛緩性麻痺をおこす病気です。ポリオウイルスは人から人に感染します。感染した人の便中に排泄されたウイルスが、他の人の口から入り咽頭や腸管で感染増殖します。感染者の90〜95%は不顕性感染となります。5%が不定の風邪症状を呈する不全型になり、1〜2%が項部硬直や四肢痛を訴える髄膜炎型になります。腸管内で増殖したウイルスは血中、もしくは神経軸索を介して脊髄に達し脊髄前角細胞を障害し筋肉の萎縮・麻痺をきたす麻痺型を起こすことがあり、これがよく知られたポリオの症状であります。この麻痺型は抗体をもたない人に感染した場合の0.1〜2%に発生すると推測されています。多くは足または手に左右非対称の弛緩性麻痺を生じ、後遺症として運動障害を残します。
 ポリオはWHOが天然痘に続き根絶計画を進めている疾患です。その甲斐があって現在の常在国はアフガニスタン、インド、ナイジェリア、パキスタンの4ヶ国のみです。しかし、中央アフリカでは断続的に発生しており、タジキスタンなどでも最近流行しています。ワクチン抗体の不充分なひとが旅行先で感染し、母国で蔓延させているものと思われます
1)
 わが国で認められ、使用されているのは経口生ポリオワクチン(Oral polio vaccine, OPV)です。他の先進国では大半が不活化ポリオワクチン(Inactivated polio vaccine, IPV)です。OPVの優れている点は経口ワクチンであるため接種が容易で血清中の抗体を上昇するのみでなく 腸管内の局所免疫も獲得できるため予防効果は大きい点にあります。それでは何故世界の主流はIPVになったのでしょうか?。OPVの欠点を以下に記載します。

経口生ポリオワクチン(Oral polio vaccine, OPV)の欠点
1)ワクチン由来のポリオの発生(Vaccine-associated paralytic poliomyelitis,VAPP)。
2)接種者の家族へのVAPPの発生
3)ポリオ罹患後30〜40年後に発生するポストポリオ症候群。


 WHOの発表ではOPVの接種後100万人に2〜4例VAPPが発生すると警告されています。本年度の日本での発生はポリオの会の報告では3例となっております。また、OPV接種後、当然、糞便からのウイルス排泄が考えられ、また、ポリオウイルスは消毒が難しいウイルスであるため家族への感染が起こりえます。発症するのは男性が多いらしく、本年も2例、働き盛りの一家の大黒柱がポリオを発症したという報告があります。ポストポリオ症候群とは小児期にポリオに罹患し、いったん回復して普通に社会生活を送っていた成人に突然、筋力低下、しびれ、筋萎縮などの種々の四肢機能障害をおこす症候群であります。平均年齢は44.5歳で、自然感染に比べて、OPV後の症状は重篤になるのだそうです。原因はよくわかっていません。米国では1997年よりOPVよりIPVに変更されVAPPは消失しているそうです。
 IPVの安全性はどうでしょうか?。海外においてIPVは1950年から使用されており、すでに8億回以上の使用がされていますが有害事象の報告はありません
2)
 このような状況より患者団体「ポリオの会」が厚生労働省に対し、IPVの導入〜輸入を求める活動を行い、それに賛同する医療機関がIPVの独自輸入を行ったということです。
 日本のワクチン行政は世界に比し遅れが目立つのですが、ポリオに関しても同様なのです。
 ちなみに、日本では生後3〜18ヶ月に2回OPVの経口接種が定期接種となっております。また、成人でも以下のような人たちへの接種が勧められています。
@ 発生国への渡航者
 先に述べた常在国への渡航者でスラム街でのNGO活動など感染のリスクの高いひとへは3回目の接種がすすめれます。日本での定期接種のみでは、T、V型の免疫獲得が弱いそうです。
A 昭和50〜52年生まれの人
 この人たちは免疫獲得が弱いそうです。ワクチンの質のせいでしょうか?。このひとたちは常在国以外の渡航でも追加接種が勧められています。
B 海外での就学時
 海外での就学時に接種の証明書が要求されるそうです。米国ではIPVとOPVの合計が4回になるよう要求されるそうです
3)
                         平成23年1月4日

参考文献
1)岡部 信彦ら : 予防接種に関するQ&A集 . 第10版, 細菌製剤協会, 東京, 2010 : 53 − 55.
2)青木 秀哲 : ポリオワクチンの現状とわたしたちの願い. 月刊保団連 . 2010 : 1048 : 19 - 22 .
3)中野 貴司ら : 海外渡航者のためのワクチンガイドライン . 第1版 , 協和企画 , 東京 , 2010 : 33 - 36 .