抗インフルエンザウイルス薬が5種類になりました


今期、新しい抗インフルエンザ薬が1種類使用可能になり、現在使用できる抗インフルエンザ薬は5種類になりました。どういう使い分けをしたらよいか考えてみましょう。
 抗インフルエンザウイルス薬は、宿主細胞におけるインフルエンザウイルスの感染と増殖の3つの過程(@標的の宿主細胞への吸着・侵入・脱殻ARNA複製B細胞からの遊離)のいずれかに作用して効果を発現します
1)

開発中の新規薬剤を含めた抗インフルエンザウイルス薬の作用機序別分類
@宿主細胞への吸着・侵入・脱殻の過程を阻害
  アマンタジン(シンメトレル)
  リマンタジン:日本では販売していません
ARNA複製の過程を阻害 
  リバビリン:肝炎ウイルスのくすり
  ファビピラビル(T-705):開発中
B細胞からの遊離の過程を阻害
  ザナミビル(リレンザ)
  オセルタミビル(タミフル)
  ペラミビル(ラピアクタ)
  ラニナミビル(イナビル)

                           下線付きが使用可能薬剤

各薬剤の用法・用量

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用法 用量 総薬価 小児への投与 備考

シンメトレル

内服

内服 50mg2錠×5日間

324円 通常使用しない A型のみ

リレンザ

吸入

4吸入×5日間

3374円 使用可 予防投与可

タミフル

内服

2cap×5日間

3091円 使用可 予防投与可。10歳代への使用制限は続いている

ラピアクタ

点滴 1回のみ 5634円(1本) 不可 15分以上かけ点滴・場合によっては連日投与も可

イナビル

吸入 20mg2吸入1回のみ 4161円 使用可


これらの薬剤の使いわけは日本感染症学会のホームページに詳しく記載してあります
2)
 シンメトレルに関してはほとんどのウイルスが耐性となりCDCよりインフルエンザに対して使用しないよう勧告があり以下の考察より省略します。
 イナビル、ラピアクタなどの新規抗インフルエンザウイルス薬は新型インフルエンザウイルスに対して既存の薬剤(タミフル・リレンザ)より強い抗ウイルス活性を示すと考えられています。季節性インフルエンザウイルスに対しても小児では既存の薬剤より優れた治療成績が報告されています
1)。しかし、重症例やハイリスク例にはいままで使用されて実績のある既存の薬剤を使用するようにすすめられています。矛盾しているように思えますが、今後変更されると思います。 
 ラピアクタは強い抗インフルエンザウイルス作用が認められていますが、多数の使用経験がないこと、特に米国ではなお臨床治験中であること、品薄が予想されること、外来で点滴することによる院内感染蔓延の可能性もあることより、内服が不可能か、もしくは確実な投与が求められる場合にのみ使用を考慮するようになっています。
 一昨年流行した季節性インフルエンザは大半がタミフル耐性であったそうです。それでもタミフルを第一選択にしても良いのか?という疑問は当然あります。タミフル耐性株でもリレンザには感受性
3)とのことなのでなおさら疑問です。今回、調べた範囲では明快な解答を導くことはできませんでした。
 タミフルによる異常行動が報告された当時、インフルエンザウイルス感染症に抗ウイルス剤を投与するか否か?、という議論がなされました。外国では現在もなお抗インフルエンザ薬を投与せず、stay at home、が主流ですが、本邦では抗インフルエンザウイルス薬の48時間以内投与が感染症学会で推奨されており、当院でもその方針に従いたいと思います。

                              平成22年11月25日

参考文献
1)渡辺 彰 : 抗インフルエンザウイルス薬の使い分け . 日本医師会雑誌 2010 : 139 :
1495 - 1499 .
2)日本感染症学会 . インフルエンザ情報
http://www.kansensho.or.jp/influenza/100122soiv_teigen.html
3)新型インフルのタミフル耐性株をめぐる最良と最悪のシナリオとは MT Pro
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1001/1001005.html