チクングニヤ熱―日本にも流行の危険性−


         
 厚生労働省・感染症部会は平成22年10月1日、チクングニヤ熱をすべての医師に報告義務を課す4類感染症に指定しました(共同通信社)。

 チクングニヤ熱はネッタイシマカやスジシマカによって媒介されるチクングニヤウイルス感染症であり、通常は非致死性の発疹性熱性疾患であります。チクングニヤ熱はアフリカ、南アジア、東南アジアに広く分布し、感染蔓延地域が南から順次北上しつつあります。その原因として地球温暖化の影響と、この疾患は人が感染源となり、感染した人が蚊に刺されると、その蚊がまた他人をさしてウイルスを伝播するという感染拡大があり、旅行という人の移動によって地球上を北上し蔓延したものと思われます。そして、ウイルスを伝播するスジシマカは日本でも東北地方まで確認されており、この感染症が日本に侵入してくるのはほぼ確実視されております
1)。現在、日本国内で感染した人はまだ確認されていませんが、インドネシアなどからの輸入症例が18例確認されています。症状は発熱と関節痛が必発で、発疹は8割ほどに認められます。関節痛は四肢に強く、対称性で、手首>足首>指>膝>肘>肩の順に多く認められ、特に両手首の激しい圧迫痛は診断の際の重要な特徴とされています。感染から2〜5日以内に結膜炎と皮疹を生じるのが一般的で、関節痛は数週間から数ヶ月継続することもあるそうです。採血上はリンパ球減少、血小板減少、肝酵素の上昇などが認められます。合併症は髄膜脳炎や肝不全が報告されています2)。2006年、インド洋のコモロ諸島での流行では、人口77万人のレユニオン島で26万人5000人の患者が報告され生活環境にも関係しますがかなり強い感染力と思われます。死亡者は237人で、1000臨床症例中、1人が死亡する確率になります1)。確定診断は血清診断になりますが、他のウイルスとの交叉反応があり、確実ではないようです。治療法はなく対症療法のみです。解熱剤はアセトアミノフェンのみの使用が推奨されています。ワクチンはなく、蚊に刺されないことだけが予防法です。鑑別診断はデング熱ですが、デング熱も多彩な症状が出現し臨床鑑別診断は難しいようです。デング熱でほとんどみられる強い頭痛がチクングニヤでは少なく、また強い関節痛がチクングニヤ診断のてがかりと思われます。

 気候変動・地球温暖化はすでに疑いのない事実とされており、その影響は脆弱性の高い発展途上国において論じられることが多かったが、適応力の高いとされる先進国においてもその影響が論じられるときとなってきました。気候変動は我々にさまざまな影響を及ぼしますが、そのひとつが感染症の増加です。@病原体の数が増えるA媒介動物が増えるB病原体が侵入しやすい生活様式になるC生活環境が悪化するなどの要因で感染症が増加し、海外旅行の増加などは感染症の侵入を容易にします。
現在予想される感染症の変化を考えてみます。
1、 蚊媒介感染症の増加 
 デング熱、チクングニヤ熱、マラリアの国内侵入。日本脳炎の増加。リフトバレー熱、ロスリバー熱の世界への拡大?。
2、 水系感染症の拡大
 コレラの国内侵入。ジアルジア、サルモネラの増加。ビブリオバルニフィカスの国内北上。
その他、多くの変化が予想されています
3)

 私たちは、これらの感染症の国内への侵入・拡大阻止のためにまだ診たことがない感染症も知っておくべきだと考えています。
                 平成22年10月25日

1)インド洋諸島のチクングニヤ熱-日本にも流行の可能性- . Medical tribune 2007 : 40
: 78 - 80 .
2)国立感染症研究所 感染症情報センター チクングニヤ熱 .
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k07/k07_19/k07_19.html
3)倉根 一郎. 気候変動の感染症に及ぼす影響 . 感染症 2008 : 38 : 78 - 80 .