帯状疱疹が増加している?


 
 帯状疱疹はヘルペス・ゾスターウイルス(水痘―帯状疱疹ウイルス:VZV)によって起こります。水痘(みずぼうそう)を起こすウイルスと同じです。子供のころに水痘にかかると一生水痘にかかることはありません。その反面、ウイルスはからだのなかに潜んでおり、特に神経のなかに潜んでいます。それが体の抵抗力がなくなると活動を開始し、典型的には胸の半分(右か左かどちらか)に発疹が出現して痛みを伴います。

帯状疱疹には年間70万人が罹患するといわれており、平均年齢まで生きた場合、6−7人に1人が一生のうち1回は帯状疱疹に罹患するといわれています。罹患のピークは70歳代にあり、もうひとつのピークは10歳代にあります。この理由は体内にひそんでいるVZVを監視しているのはリンパ球の仲間のメモリーT細胞といわれていますが、このメモリーT細胞の寿命が十数年といわれており、最初の水痘感染後、メモリーT細胞の刺激がないと10歳代でメモリーT細胞が消滅し帯状疱疹が発症するものと思われます。一般には成人は知らないうちに水痘の子供や帯状疱疹のひとに接しているのでVZVに刺激をうけメモリーT細胞が減少せず帯状疱疹を発症しなくてすむものと思われます。ちなみに帯状疱疹の患者さんはウイルス血症になっているので唾液などの飛まつ感染を起こすそうです。VZVの追加刺激を受けても、加齢、強いストレス、糖尿病などの免疫が低下する病気や状態になるとメモリーT細胞が減少し、帯状疱疹を発症しやすくなります。これが70歳代に一番のピークがある原因です1)

帯状疱疹は長い間、新知見に乏しい状態でしたが、2009年、宮崎県での大規模な疫学調査が発表されました2)。それによると過去13年間で帯状疱疹の発症率が33%増加し、特に60歳以上での増加が顕著だということでした。その原因として、水痘の発症時期と帯状疱疹の発症時期が反比例していることより、中年以降の成人が水痘の子供と接触しなくなったことが主因ではないかと推測されています。こんなところにも少子高齢化の影響があるのでしょうか?。そこで、帯状疱疹にかかっている老人に接近してメモリーT細胞を刺激してもらうのは無効なのだろうかと調べてみましたがそのようなデータはありませんでした。

海外では水痘ワクチン接種が帯状疱疹予防に有効であるというデータがありますが(発症率を約半分に減らせる3))、本邦では海外の水痘ワクチンとは種類が違っており、明らかに有効であるというデータはありません。しかしある程度の期待はできるものと思われます。もちろん保険適応外であり、「50歳以上で水痘皮内反応陰性のひとに考慮してもよい」という提言もなされています。

当院では7500円で接種可能ですが、有効率(約50%)とコストを考えると積極的にはすすめておりません。

                     平成22年8月1日

参考文献
1)小川 節郎ら : 帯状疱疹後神経痛に対する治療の現状と今後の展望.
Medical Tribune .
2010 ; 43 ; 26 ? 27 .
2)玉置 邦彦ら : 帯状疱疹の最新疫学調査と新たな治療コンセンサス .
Medical Tribune .
2010 ; 43 ; 53 ? 55 .
)白木 公康:帯状疱疹予防の水痘ワクチン . 日本医事新報 . 2008 ; 4405 ; 92 - 93 .

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