犬・猫咬傷に注意! - カプノサイトファーガ感染症 -


 犬・猫の口内常在菌であるカプノサイトファーガ菌(Capnocytophaga)(以下カプノ菌と略します)による感染症で2002〜2009年の8年間に14人が発病し、6人が死亡したことが報道され注意が喚起されました(平成22年5月25日 読売新聞)。
 近年、少子高齢化や核家族化の進行などが関連し、ペット(愛玩動物)を飼育するひとが多く、問題なのは飼育方法の変化(屋内飼育やペットの種類の多様化など)に伴い思いがけない人獣共通感染症との遭遇の可能性を増加させていることであります。人獣共通感染症は日本では主なもので30種類以上、また世界中では数百種類が知られています。病原体は細菌、ウイルス、寄生虫、リケッチア、原虫、真菌などさまざまで、感染経路も接触・咬傷・掻傷などの経皮感染、口移しなどによる経口感染、乾燥糞の吸入による経気道感染、ダニやノミなどによる間接感染など多彩な感染形態をしております1)
 一般に、犬の咬傷で5%、猫の咬傷で80%が感染をおこすといわれており、特に猫の咬傷では感染が必発といわれております。病原体はパスツレラ菌が多いといわれています。パスツレラ菌は掻傷や濃厚接触でも感染するといわれ、また、明らかな接触歴の記憶がなくても感染症をおこすことが知られております。パスツレラ菌を含め、犬・猫咬傷ではまず、水道水でよく創部を洗浄し、嫌気性感染(特に破傷風!!)予防のため傷は原則、縫合せず開放とし、傷が大きい場合は小さいガーゼをいれてドレーンにします。抗生剤はペニシリン/β―ラクタマーゼ阻害剤合剤を処方します。傷が大きい場合や汚い場合は破傷風トキソイド筋注をすることもあります。狂犬病は本邦では考える必要はありませんが、流行地(東南アジア)では今でも要注意です2)
 カプノ菌もまた犬・猫の口腔内常在菌で、かまれたり、ひっかかれたりすることで感染します。犬の保有率は96%といわれ、犬咬傷の2%から分離されるといわれています。しかし、この菌は増殖に時間がかかる弱毒菌で、犬の常在菌でありながら、感染症報告数が少ないことより免疫機能の低下した人にのみ感染症をおこすものと考えられています。しかし、診断法が難しいことより見逃されている可能性もあります。しかし一旦発症すると「昨日元気で今日ショック」といわれるぐらい時間単位で悪化するそうです。脾臓を摘出したひとやアルコール依存症のひとが高リスクといわれております。
 診断は菌の培養のみですが、培養に時間がかかり検出は難しいようです。治療はペニシリンを含めほとんどの抗生剤が効くそうです。
 動物咬傷は必ず医者にかかったほうがよさそうです。また、かわいいペットでも過剰な接触は避けたほうがよいかも??、と思います。

 平成22年6月10日

                文献
1)宮下 修行ら:ペットからの感染症 . 内科 102:918−920 , 2008 .
2)有吉 孝一:虫・動物咬傷治療のプライマリケア . 日本医事新報 4488:54−59 , 2010 .
3)カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症に関するQ & A(平成22年5月21日):
http://www.city.funabashi.chiba.jp/ho-somu/doubutsu/kapuno.pdf

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