日本脳炎ワクチンが新しくなりました!


日本脳炎ワクチンが本年4月1日よりすべて新しいワクチンに変わりました。従来、ワクチン製造にマウス脳を使用していましたがこれは、副作用として急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との関連が否定できず、2005年5月より事実上、ワクチン接種をすすめられないとして、ほぼ中止されていました。この旧ワクチンの使用期限が本年3月で終了し、なくなってしまいました。そこで、2009年6月に発売された乾燥細胞を使用して作成された新しい日本脳炎ワクチン(ジェービックV)にすべて置き換わることになりました。このワクチンはADEMの副作用はないものと考えられています。
 日本脳炎は大半が不顕性感染(症状がでないということ)で経過しますが、1000人の感染で1人の確率で脳炎を発症し、一旦発症すると治療法はなく、致死率は20〜40%と高く、回復しても半数程度は重度の後遺症が残ります1)
日本脳炎の発生報告は。近年、生活環境の改善(下水、河川の整備、養豚場の郊外への移動)による日本脳炎媒介虫・コガタイエカの減少とともに、蚊に刺される頻度の減少(クーラーの完備、家屋の密閉化)などで年々減少し、年間数名程度にとどまっています。しかし、日本脳炎ウイルスの保有動物であるブタにおける抗体保有状況は、西日本を中心に広く認められており、西日本では日本脳炎ウイルスに感染しているブタが多く存在することになります。また、過去5年間ワクチン接種が中止されていたことから成人の抗体保有率も低下し、成人でも10%前後と報告されています(30歳〜55歳はほぼ0%)。いわば、日本脳炎ウイルスに無防備な状態となっております2)
 現在、東南アジアでは森林を伐採して水田を造成し、そこで家畜とともに生活するという日本の1950年代の農業がさかんになっております。当然、当時の日本と同じく日本脳炎が爆発的に増加している状態です。また、従来よくわかっていなかったコガタイエカの生態ですが、東南アジアから遠く海を渡って日本へも飛来していることが推測されています3)
 熊本県保健環境科学研究所の調査では、熊本県のある地域の年間自然感染率は2.8%という数字も報告されており、日本脳炎がいつ発症してもおかしくない状況です4)
 日本脳炎ワクチンは13歳までの子供の定期接種が始まりましたが、子供の定期接種に関しては小児科でご相談ください。
 私たちは成人の任意接種に対して相談をうけております。
 私たちは以下のような方に日本脳炎ワクチン接種をすすめております。
1.    東南アジア方面への長期滞在予定のひと。
2.    自宅周辺に豚舎があるかたや、蚊にさされる頻度が高いと考えられるひと。

 接種は当院では年中可能ですが、予約が必要です。通常0.ml皮下注で、費用は1回6000円です。成人の追加免疫としての接種回数について正確な記載がなく、またデータもありませんが、接種歴の不明のかた〜抗体陰性のかたは、基礎免疫からの接種(3回接種)が推奨されていますが、現状ではまず1回からでも接種されたらと考えております。現在、30〜50歳のかたはほとんど抗体をもっていないと考えられており、接種回数に関しては今後の課題であり、新しい報告が待たれるところです。トラベラーズワクチンとしては流行地(東南アジアなど)への長期滞在時、3回接種(当日、4週後、1年後)することが推奨されています。
 また、抗体を維持するためには4〜5年毎の接種が推奨されています。現在ワクチンの製造が1社のみに限られており、品薄も予想されていますが、今後、他社からの発売も予定されており、接種推奨の広報がなされるものと思っております。

**ワクチンはそのときの感染蔓延状況や使用されているワクチンの効果・副作用の情報、それに加えて、厚生労働省の方針などいろいろな因子を考慮する必要があり、考察が難しく、わかりにくい表現になったことををお詫びいたします**

             平成22年5月

文献
1)岡部 信彦ら : 予防接種に関するQ&A集 . 第5版, 細菌製剤協会, 東京, 2009.
2)感染症情報センター・日本脳炎:http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE01.html
3)上村 清 : 日本脳炎―蚊の対策において何が重要だったかー . 感染症  133 : 16 ? 19, 2003.
4)熊本県における日本脳炎ウイルスの活動状況調査:http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/352/dj3521.html

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